2009年7月11日土曜日

山口誓子の俳句


山口誓子の俳句

春の俳句

近づくにつれ塔重き 春の暮
天よりも かがやくものは 蝶の翅
潮音寺 春潮の音 聞く寺か
流氷や 宗谷の門波 荒れやまず

夏の俳句

吾の航く 天に峯雲 堵列せる
火口ちかし 降りし氷雨に 手を衝たる
夏の河 赤き鉄鎖の はし浸る
匙なめて 童楽しも 夏氷
七月の 青嶺まぢく 溶鉱炉
離宮内にて 麦藁を焚く 猛火
ピストルが プールのかたき 面にひびき
葭戸(よしど)過ぎ 几帳も過ぎて 風通る
鯉幟 富士の裾野に 尾を垂らす
全長の さだまりて蛇 すすむなり
波にのり 波にのり鵜の さぶしさは
毒ありて うすばかげろふ 透きとほる
夏草に 汽罐車の車輪 来て止る
山窪は 蜜柑の花の 匂ひ壺
遠き世の 如く遠くに 蓮の華

秋の俳句

七夕や 天皇の御名を 書しまつる
愉しまず 晩秋黒き 富士立つを
無花果の ゆたかに実る 水の上
つきぬけて 天上の紺 曼珠沙華
大文字 第一画の 衰へそむ
夕鵙に よごれし電球(たま)の 裡ともる
蟋蟀が 深き地中を 覗き込む
かりかりと 蟷螂蜂の 皃(かほ)を食(は)む
石炭の 尽きし山々 紅葉せる
林檎樹下 病める林檎の 集められ

冬の俳句

冬ざれの 塩田を踏む 許得て
海に出て 木枯帰る ところなし
大日輪 霧氷を折りて 手にかざす
冬河に 新聞全紙 浸り浮く
夜を帰る 枯野や北斗 鉾立ちに
スケートの 紐むすぶ間も はやりつつ
手袋の 十本の指を 深く組めり
学問の さびしさに堪へ 炭をつぐ
雪の富士 高し地上の ものならず
浮く鴨に 志賀のさざなみ 細かなり
生きてゐる 牡蠣その殻の ざらざらに
玄海の 冬浪を大と 見て寝ねき
落葉松(からまつ)は 直幹落葉 しつくして

新年の俳句

初富士の 鳥居ともなる 夫婦岩
枯れざまの 揃ひし蘆や 初筑波
初凪の 一湾海の 門まで見ゆ
年礼に 来し木匠の 木の香する
日本が ここに集る 初詣
初神楽 太く神慮に 叶ひたり

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